滋賀の北西、京都から若狭へ通じる鯖街道のさらに山間に位置する朽木古屋では、「山の神さん」の神事が年2回、3月と10月に行われています。
古屋は、農業は自給する程度で、林業を生業の中心として生活を支えていました。 地域には山の神の祠が周辺の3箇所にあり、個人の家や数軒の家が共同で祀っていて、 現在は、山の神の祠に最も近いお宅が宿を引き受けて行事が行われています。 また行事は、山の神だけでなく、お伊勢さんと愛宕さんの行事も一緒にして行われています。
宿の家では、床の間に各祭神の掛け軸をかけ、供え物と山の神の祭器などが用意されます。定時になると地域の方が宿宅に来られ、まず床の間の前で扇を広げて拝礼、 全員集まるとお供えを持って裏山にある山の神さんにお参りをします。 急斜面を登り祠に着くと、祭器を供え、お神酒を祠に注ぎ、次に「シロモチ」を箸で少しつまんでお供えします。 代表者が御幣を両手に持ち、外から内へ三度回し(春は内から外へ)、一同で拝礼し神事は終了します。 この御幣を回す所作は種まきと収穫を表しているといわれています。 宿に戻り、床の間で拝礼した後、直会となります。
かつてこの行事は、12月の亥の日に行われていました。 山の恵みと山仕事の無事を感謝し、一年の締めくくりとしたのでしょう。 山の神は、山での仕事が生活の中心であった地域の人々の暮らしにおいて、大切に祀られてきた神様であったはずです。 山に行くことが少なくなった今日においても、山の神は地域の人たちによって身近な神様としてお祀りされ、 裏山から人々の暮らしを温かく見守り続けることでしょう。



山の神には、シロモチ、長刀、槍、刀の3種類の祭器、12膳の箸、焼き物、御幣などが供えられ、灯明がともされます。 長刀、槍、刀の3種類の祭器は杉製で、なた1丁で作り、丁寧なものより荒々しく作る方がよいとされています。

焼き物は木製板の上面に鯛の絵が描かれており、足が付けられ立てられるようになっています。

シロモチは、生米を粉にし搗いて丸く固めたものです。

また、各家ではこの日、山へ行く男性の数だけ小判型のシロモチを作りお供えをしていました。